前編は臨店検査の様子を中心にまとめましたが、後編は、当社が検査官や検査そのものとどのように対峙したか、また、そんな中自分に異動辞令が出されたお話をまとめて行きます。
さて、臨店検査が始まってしばらくは、自分ではない別の担当者がフロントになって検査官と直接対応をしていたのですが、どうもまともな受け答えが出来ていなかったようで、間接的にとはいえ転職前の職場で当局の検査官とやり取りをした事のあった自分にヘルプの依頼がありました。
最初はあくまで脇役のつもりで正直余り関わりたくなかったのに、結局自分と親会社のコンプライアンス担当部長がタッグを組んで窓口を担当することになってしまいました。
その後検査が進むにつれ、個別の指摘事項の根源は、そもそもシステム管理をする上での体制面がなってないからではないかい?という話が出て来ました。会社はこの話に大いにビビり、以降ものすごい早さで、事実上のシステムに関する対当局窓口として、PMO(Project Management Office)部署が急きょ新設されました。システムや企画等の各部署からは、元々の所属部署での担当業務を通して、それなりにシステムを俯瞰する事が出来るだろうと考えられた人材が集まりました。新設部署にもやっぱりかかわり合いたくなかったのですが、臨店検査対応の流れから逃げ切れず、自分にも招集が…
この出来事をきっかけに、自分は20年近く勤めたシステムの現場を離れ、ほぼ検査対応のみ専門で扱う新設部署に部長ポジションで配属となりました。以降、システムに直接携わる仕事から完全に離れ、当局から出された業務改善命令への報告対応や、金検マニュアル(PDF注意)に基づくシステム管理体制の立ち上げ、構築や関連の諸規程整備・見直し、主要なシステム関連のエビデンス※に全部目を通す&システム障害についても全部情報収集の上、定期的に役員や当局向けのレポートを作成する仕事に取り組む事となりました。
※開発・リリース計画、運用計画の他、計画通り業務を遂行しているかを確認する為の作業を含む。
正直、まだ現場を離れる事に対し未練たらたらだったのですが、実は目の前にぶら下げられた部長ポジションに対し、一瞬「高卒でも部長ポジションまで昇格出来るのか!」「とうとう完全に現場を外れた!!」という具合に喜んでいたところもありました。
しかしよくよく考えてみると、「今後同様に急な検査が入ったりした際に不備が見つかれば、まず真っ先に矢面に立たされるのが、おそらく自分のポジション」という事実にすぐ気がつき、その事実と責任の重さに気持ちがつぶれそうになるのでした…これはblogを書いている今でも変わりありません。
ちなみに、業務改善命令の原因となった不備で、検査官から指摘を受けた事項は、内容としてどれもまっとうなお話であり、「出来てないから直せコラ」と言われればそれに従わざるをえない事ばかりでした。しかし、例えばシステムの運用監視体制一つとってみても、検査官はあてがうリソースが潤沢にあることを想定しているような物言いで攻めてくるところが、受けるほうからすると非常にしんどかったです。
大概のネット金融業者がそうだと思うのですが、そもそも実店舗を持たない業態であることから、リアル店舗を持つ金融機関と比べ社員数は非常に少なく、またシステムにかけるコストも元々ぎりぎりまで詰めています。規模が全く異なるので直接比較の対象にはなりませんが、某大手銀のシステム移行に要した人員数などは夢のまた夢の話であり、金融機関だからって同じような体制が理想と言われても大変厳しいものがあるわけです。
とは言うものの、そんな話が通じるわけもなく、結局業務効率をある程度犠牲にして、かなり無理くりに改善対応を進めるしかありませんでした。
また彼らは、「リソースを増やせ」等の具体的な改善指示は決して出しません。検査官からの指摘事項に対する改善内容は、あくまで「お前らが自分で考えれ」というスタンスです。まぁ「当局指示の通りにやったのに運悪く大障害が起きました」なんていう話になった日には当局にも火の粉が飛ぶわけで、「決して直接的な改善指示を出さない」というのも至極当たり前の話ではあるのですが、なるほどこれがまさに「The お役所仕事」なんだとはじめて理解した出来事ではありました。
例えば、上記に取り上げたシステム管理体制を整備する為にリソースが不足するのであれば「経営陣への適切な報告と、指示関与=リソースが足りない事を経営陣に報告し、それを経営陣の判断で人員増強を行うなどの判断を出来るような場とプロセスを作る事」が求められます。
しかし、システムによほど詳しい役員がいない限り、現場サイドでの報告を理解してもらうためのハードルは非常に高く、「サルでもわかる」レベル感での内容が求められます。ここでうまく意思疎通が出来ず、現場サイドで「リソースが足りないせいで、甚大なシステム障害が生じた」なんていう話になった日には、おそらく役員と自分の所属部署はメッタ刺しになることでしょう。
今は現場を離れて、ひたすら態勢構築※とモニタリングとレポーティングに悪戦苦闘する日々を送っています。
※金検マニュアルより分かり易い内容として、以前の投稿にも張ったリンク(PDF注意)を再度張っておきます。
次回はいよいよ今までのサラリーマン人生の総括として、リーマンショックときっかけにしたリストラのお話と、今後の自分の身の振り方について書いていきたいと思います。