使えない部下との向き合い方

このエントリーは前に投稿した「理不尽な上司との向き合い方」と対になっています。このblogを御覧頂いている方ご自身の立場やお悩みと比較して、読む順番を決めてもらえればと思います。文書上では、「上司=自分」という表現で記載します。

業務指示を出しても抜け漏れが多い、期限が守れない等、使えない部下にストレスを貯めた経験は、係長以上に昇進した方なら誰でも一度は経験しているのではないでしょうか。この投稿では、使えない部下に遭遇したときに、それをどのように受け止めれば良いのか考えてみます。


■部下の特徴を把握する

まずは、部下の「どんなところが使えない」のか、「どうして使えない」のか、じっくり考えてみましょう。
期限を守らない、品質が低い、指示通りに仕事を進めない等、諸々有ると思いますが、まずは上司として部下に何を期待しているのかを考えてみて下さい。例えば、仕事の目的、仕事の進め方、期待する仕事の成果(物)等です。
続いて、それぞれの期待値に対し、部下が足りていないのは何なのか考えてみましょう。
例えば、成果物の品質は高いが期限を守らない、スピードは速いが品質が低い、スピードも質も高いが仕事の進め方がめちゃくちゃ、といった感じです。
ここまでたどり着いたら、次に上司として考えなければならない点が2つあります。


■上司の指示は驚くほど部下に伝わっていないと思った方が良い

まず考えるべき事は、「あらかじめ」アサインする仕事の内容を的確に伝えてられていたか?という事です。初めに必要な事項をろくに伝えず、すでに仕上がった仕事を見て後から文句を言ったところで、それまで費やした時間は帰ってきませんし、部下からは「丸投げアホ上司」のレッテルを貼られる事間違いなしです。ですから、部下の性格や得意不得意を把握した上で、先に上げた「期待値に対して何が足らないのか」を念頭において仕事の内容を説明する必要がある訳です。
部下のトライ&エラーをあらかじめ想定して、あえて仕事を丸投げにするケースは除外という事で。

しかし、恐らくこれ「だけ」を実践してもうまく行きません。もしこれだけでうまく行くのであれば、その部下は相当優秀だと思って大切に育てた方が良いでしょう。しかし大概の部下は、これだけではうまく伝わらないのです。

何故だ?と思う人は、部下に業務指示を出す際に、部下の様子をよーく見ていて下さい。「期待値に対して何が足らないのか」を念頭において仕事の内容を説明すると、足らない部分に話がさし掛かったときに、部下のリアクションが変化していませんか?

例えば押し黙ってしまったり、それまで覇気のある受け答えだったのが、急に気が抜けてしまった様に見えたりと、大概はネガティブな反応を示すものです。何故だと思いますか?自分がまだ部下の立場だった時、同じように指導され、苦しかった事はありませんか?その時、上司の話を素直に受け入れる事が出来ましたか?

そうなんです、人間は弱いところを突かれると、なかなかそれをうまく受け入れる事が出来ないのです。まだ「あいたー」くらいの顔をしているのであればマシで、よほど日常から上司と部下のコミュニケーションがうまく働いていない限りは、人間こういったときにはまず「防衛反応」が働き身構えてしまうものなのです。

結果、上司は部下の特性を見極めて業務指示を出したとしても、残念ながらその意図は部下に伝わらず、その場限りで終わってしまいがちなのです。ですから、上司はこのような状況を想定して、もう1つ考えておかなければならない事があります。


■業務指示をストーリーの一部として考え、部下の立ち位置が分かるようにする

それは、上司がアサインする業務の背景を認識し、その中で部下にどのような役割を期待するのかを伝える事です。これがないと、個別の業務指示がその場限りの判断でバラバラ部下に落とされるだけになってしまい、その様は部下から見ると「俺はおまえのパシリかよ」という話であり、新卒ならまだしも入社後数年経てば、誰も上司について来なくなってしまうでしょう。

ストーリーを考えるときには、自分が上司として所属する組織、チームの役割を以下の図に記載される要素に分類してみて下さい。
  1. まず明確にすべきは目標です。会社として目標管理制度を導入していれば、目標は経営陣や所属する組織の長から、目標と達成期限についての業務指示が行われるでしょうし、それが無いなら会社全体から見た組織、チームに期待される内容に基づき、上司自身が決めましょう。組織やチームがフロントオフィス寄りであれば、収益やシェア、バックオフィスであれば効率やコストを主な目標とするのが一般的でしょう。
  2. 続いて、目標を期限までに達成する為の戦略(プロセス、ストーリー)を考えましょう。これも目標管理制度を導入している組織であれば、嫌でも作らされる事になりますし、無ければ先と同様に上司自身があらすじを考えましょう。
  3. その次は、戦略の構成要素となる戦術をを考えます。会社の業務においては、良くいわれるヒト・モノ・カネを代表するリソースや資産・技術等が考慮事項として上がってきます。

個人的な仕事の経験から、ここまでの全体像を5枚から多くても10枚程度のプレゼンテーションスライドか、又はA4で3−5毎程度に纏めるのが良いと思います。これより多すぎても少なすぎてもNGです。
多すぎる場合は余計な情報が入りすぎている事になりますので、優先度の高い情報に絞り込み、少なすぎる場合は不足要素が無いか再検討しましょう。ちなみに目標管理制度があったとしても、敢えて自分の思いで別途資料を作った方が良いと思っています。

ここまでの準備ができたら、最後に自分が上司として属する組織・チームの部下をどの戦略・戦術といった要素に割り当てるかを考えましょう。
重要なのは、ここで部下の実力と性格や得意・不得意等の特性・性格を考慮して割当を行う事です。
例えば、将来の幹部候補として推奨出来るほど優秀な部下であれば、戦略レベル(戦略の中身の組み立て)から業務指示を出すとよいでしょう。また新卒や業務経歴の浅いスタッフには、戦術レベルで明確に業務をアサインし、部下の成長に合わせアサインする(習得してもらう)戦術を増やすか、又は戦略レベルの意思決定から参画してもらう等の検討をするのが良いでしょう。
この時、個別戦略・戦術において「■自分の仕事を「数字」で表現する」に書いた5つの指標「売上」「利益率」「品質」「生産性」「スピード」の観点で、重視すべき属性も上司が決めましょう。

仕上げに、自分の上司(例えば自分が課長であれば、一般的にその上司は次長、副部長、部長といったあたり)にレビューをしてもらい、OKが出たら、これまで考えた目標、戦略、戦術を自分のチームに展開しましょう。その時には先に書いたプレゼンテーションスライドやA4文書を元に説明を行うのがベストです。

ここまで出来れば、個別の業務ごとにねちねち部下の弱点を掘らずとも、あらかじめそれを考慮した上での業務アサインが出来ますので、部下が身構える機会が減るのではないかと。
何より部下がチーム全体の目標やそこに至るまでのストーリーを共有した上で、自分の立ち位置が明確になる事で、単なる上司の使いっ走りではなく、部下が自身に期待された役割を理解する事が容易になります。

無論、チーム内への展開時に部下からフィードバックがあれば、目標・戦略・戦術に照らし合わせ、それらに相反するものでなければ極力フィードバック内容を受け入れ、見直しをする事も忘れずに。


■フォローアップも忘れずに

なお、これまで書いた内容でお話が終わる訳ではありません。
上司は個別の業務指示に対する確認だけではなく、目標が達成されるまで、戦略・戦術全体が整合性を崩す事なく想定通り進んでいるかを確認しなければなりません。確認の間隔は、一般的な個別業務指示に対する進捗等の確認が1日〜1週間である事に対し、戦略・戦術全体の確認は1ヶ月〜4半期程度が妥当と思われます。

確認の際に迷いやうまく行っていないと思う事があれば、いつでも目標から順に当初想定した事項に立ち戻り、戦略・戦術の妥当性を検証すれば良いのです。例えば、目標・戦略・戦術を個別に点検し、当初はうまく行くと思っていた戦略が点検時点では望ましくないと判断出来る状態であれば、点検の結果として望ましくない戦略・戦術を変更します。無論、変更内容も組織・チーム内で共有し、影響を受ける部下がいれば変更の意図とその影響を説明すべきです。


■上司は上司の務めを果たさなければ、部下はついて来ない

いかがでしょうか。これを読んで「こんなメンドクサイ事やってやれない」と思う方も少なからずいるのではないかと思うのですが、実はこの内容、規模や程度の差こそあれ、一般的にマネジメントの仕事としての基本の「き」なのです。

自分が少なくとも複数の部下を持つような立場になったら、これまで書いて来た内容を上司である自分がきちんと咀嚼し消化しないと、その場の思いつきで業務指示を出す事になりかねず、配下に付く部下は不幸な事になりますし、また部下にアサインしている仕事の意義を問われたときにクリアな回答が出来ず、部下の信頼を失う一因になります。

無論、これまで部下として積み重ねた経験に基づき、目標や戦略・戦術を立てる能力を日々磨く必要もあります。目標・戦略・戦術を立てたとしても、その内容が妥当なものでなければ、組織・チーム全体が迷走する事になります。ノリや感覚だけで業務指示やら判断やらをしていれば、部下からそれを見抜かれるのは時間の問題でしょう。


■「部下をほめろ」とかいう話は後回し

「使えない部下」をキーワードにググると、部下の出来の悪さを一方的に非難したり、「部下を怒るな」だとか「ほめろ」などの具体性に欠くワードが山ほど出てきますが、そんなものは全部上司がやるべき仕事をやった後に考えるべき事項だと思うのです。ほめ続けるだけで部下が成果を出すのであれば、そんなに楽な事はありません。

また最近では、今時のご時世を反映して「リーダーシップ」なる言葉も出てきますが、どうも個人の資質やパーソナリティによる内容が多いように見え、まるで資質やパーソナリティが備わっていなければ上司失格みたいなステロタイプの論調が、やはり山ほど検索にヒットします。が、そんな都合良く資質やパーソナリティが備わっている人が世の中ごろごろいる訳ではありません。

なので、上に書いたような意見や、メディアの記事などを見て「自分自身は上司に向いていない」と思う前に、まずは「上司の仕事」を実践してみて下さい。

それにしても、上司って楽な仕事ではないですよね...「俺は平社員のままでイイ!」という人の気持ちも分からんでもないです。

ちなみに自分の中では、辛さより個人ではなし得ることが出来ないような成果を組織・チーム全体で手にする事が出来る醍醐味が勝っていることもあって、ここまでやって来れました。

■最終的には「相性」の問題?

「出来の悪い部下」との向き合い方について、ここまであえて感情論を控えめにし、論理的に物事を考えられるような方向で文書を書いてみました。
しかし、「人間は感情の動物」といわれるように、いくら理詰めで物事を考えても、実際には「感情」で納得出来なければ、残念ながら「出来の悪い部下」と向き合い続ける事になるのでしょう。

良く言われる事ですが、「出来の悪い部下」と「感情」は、結婚生活に似ていると思えるのです。部下との出会いは、結婚で言えば自ら選択した出会いではない「お見合い結婚」に相当する場合が圧倒的に多いのでしょうが。

結婚してみたら、思っていた人と違う、またはそれまで見えなかったところまで見えて、それが受け入れがたい等、良く聞く話ではあります。またそれを受け入れるか、はたまたサクっと離婚するか、子供が成人するまで仮面夫婦を続けるか等、皆一様な選択肢を取るのではなく、その人の性格や置かれた立場で様々な選択がされていますね。

自分としては、「絶対に許せない、一歩たりとも譲れない」という事柄でない限りは、世の中の大概の夫婦がするであろう、お互いの「納得が行かない」事に対して話し合い、互いに歩み寄る努力をまずすべきだと思うのです。ですからこれをお読みに頂いた皆様も、諦めてしまう前に、まずは「上司の務め」を果たし、「上司として所属する組織・チーム全体を俯瞰した上で部下と向き合う」事を考えてみて下さい。

1日の半分以上職場にいるのですから、その間ずっと「仮面夫婦」の状態で同じ職場で仕事をするのはとても辛い事でしょう。ならば自分に出来る事をした上で、それでも「感情的に納得出来ない」のであれば、「諦めて仮面夫婦のまま付き合うか、サクっと離婚」してしまうのが、お互いの幸せになると思うのです。
仕事に置き換えれば、「仮面夫婦」=組織・チーム内で飼い殺し、「さくっと離婚」=部署移動や転勤の辞令を出す等の対応になりますね...いずれも上司としては極力避けたい選択肢ではあります。


ここまでご覧頂き、有り難うございます。
当エントリを含め、これまでの転職履歴で得た経験から、仕事に向かい合う為に必要なテクニックや、メンタリティ・思いを抽出し、「お仕事サバイバル」のページにまとめました。
また、「お仕事サバイバル」のネタ元となる、就職からアラフォーの現在に至るまでの8回に渡る転職履歴について、「転職履歴」のページにまとめています。 
それぞれ、あわせてご覧頂けますと幸いです。